かつて統合失調症になって10年以上H先生にお世話になり続けました。
H先生は患者の言うことを、一人の人間としていつも聴いてくれたので、H先生に薬をのんだ方が良いと言われると、特に理由が分からなくてものもうという気になる不思議な先生でした。
統合失調症になって、職場復帰をH先生と二人三脚でやりとげて10年後、私は結婚してからすぐに夫が遠くに転勤になってしまいました。育休になったら夫の勤務地で育児をすることにしました。
それで、H先生に紹介状を書いてもらって、それからしばらく違う先生にお世話になっていました。
4年の育休から復帰して地元に戻ってきたら、H先生のいらっしゃったメンタルクリニックは閉鎖されていて、しばらくはH先生がどこにいらっしゃるのかも分からず、地元の違う病院にかかっていました。
その先生は、診察中「この病気(統合失調症)の人は、働かなくて済むなら働かない方がいいんだけどね」と仰っていました。夫を残して家族を離ればなれにしてまで職場復帰した私は、それだけでも居心地の悪さを抱えていました。
そんなときに、転勤したばかりの職場で、人間関係で困ったことになりました。
仕事を組んだ人から始めての仕事を教わらなければならないのに、どこで嫌われたのか、まともに教えてもらえない。マニュアルをくださいと言っても、半分くらいで切れたマニュアルがきたり、わざと覚えないようにしてきたり、聞いたことにもまともに答えてもらえない…毎日、夜9時まで残業して、自分なりに学ぶのですが、その資料も全て取り上げられてしまいました。
困っても、上司もその人の肩をもつので、本当に困りました…
それでも私が仕事をできたら良かったのですが、ほんの少し間違っただけで、大変な責任をとらないといけない仕事で、私もまいってきました。
それを当時の主治医に言えずにいました。「だったら仕事を辞めなさい」と言われそうな気がしたからです。
それで、当時、どこにいるか分からなかったH先生を探して、大都市の大きなメンタルクリニックに勤めていらっしゃるのを探しあてました。
そこまで車で1時間、電車で2時間もかかりましたが、背に腹は変えられませんでした。
数年ぶりに再会したH先生は、咽頭がんを患われていらっしゃって、絞り出す様な声で、でもそれ以外は以前と変わりなく、温かく診察してくれました。
紹介状を書いていただいてからの育休中の話もしたら「はなさん、それだけの試練をよくこれだけの薬で乗り越えてこれましたね!」と温かく言っていただき、じわっと涙がでてきました。
それから、職場でのことを伝えたところ、体調の本格的に悪くなる前に、統合失調症の名前を伏せた3ヶ月の診断書を書くから、と言われました。私が3ヶ月も!?と驚いていると、「最低でも3ヶ月休まないと職場が変わらないのですよ」とおっしゃいました。
かくして、私はH先生に診断書を書いていただき、3ヶ月後、そのパワハラの主とのコンビを解消していただき、無事に仕事を継続できたのでした。
ちなみに、その休みから復帰した直後、H先生は体調を崩されて、そのメンタルクリニックを退職されてしまいました。
その後、どうされたのかずっと気になっていたら、あるとき、何かのきっかけで先生の名前をググったら、先生のWikipediaのページができていて、そこではじめて、先生が亡くなられたことを知りました。
しばらくショックでした。
その後、色々なクリニックを転々として、本当に患者の立場を分かって一緒に考えてくれる先生は滅多にいないことを知りました。
私はH先生だから今まで無事に生きてこれたのだと思っています。今でも時々、この悩みをH先生に相談したら何というかな、こんな立場に立ったら、H先生だったらどんな聴き方をしただろう、と考えることもあります。
私は何度も人生のピンチをH先生に救っていただいてきました。
統合失調症が運んでくれた、ありがたい出会いでした。